うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #4
運転席には、父の共同経営者である山本さん。
後部座席には、黒いスウェットとジーパン姿の加藤さんと私が並んだ。
父に恩義があるという加藤さんは、昨日と今日の話をずっとしている。「娘と息子は俺の顔を見るたびに小言を言うから煩わしい。会いたくない」と、私達を退けていた父は加藤さんに買い物代行を頼み、自宅に運ばせていたらしい。
「昨日の朝9時に連絡がきて買い物を頼まれたんで。10時半すぎに、2Lの水2本と焼酎の紙パックを3本とみかんを買ってお家に運んで、玄関前に置いてきたんです。昨日は定休日で在宅されてたみたいで」
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。今日の昼の12時頃に僕と山本さんが様子を見に行った時には、それらはなくなっていたから自分で部屋に運びいれたんだと思います。だから昨日のお昼前までは少なからず元気だったんだと思います」
「そうですよね、ありがとうございます」
加藤さんは、思い出せるかぎりの近々の父の話をずっとしている。
「娘さんも、さぞかし心配でしょう? 実家に着いたらすぐに救急車を呼んで――」
「生きててほしくないです」
「へぇっ?」
加藤さんは素っ頓狂な声をあげ、“信じられない”と言いたげな顔で私を見た。
この家族で幸せだと思ったことが一度もありません。私も弟達も同じ気持ちです。
この両親のもとにうまれてしまったから諦めたことや手放したことがあまりに多いんです。へたに父が助かって、後遺症があるようなかたちで介護をさせられる人生はまっぴらです。
もう解放してほしいです。この家にうまれた苦しみから。だから助かってほしくない。虫の息ならそのまま気づかないふりをしたいです、本当は。
「そんなことはできないですよ……」
加藤さんは今にも泣きださんばかりに声を震わせる。
「わかってます、道義的にはそんなこと許されないとわかっているんです。でも……」
「虫の息なら俺は助けます!」