うざゴリ#16|ひとり暮らしの親の孤独死×四十九日のあいだは

うざゴリ

齢73にして母から三下り半を突きつけられ「ポイ」された父。
私たち姉弟の大好きだった父は今は昔。

「縦のモノを横にもしない大酒のみの頑固なウザいゴリラ」と化した父は、浴室からひとりでぽっくり旅立った。山積みの問題と未処理の面倒と、どうしようもない笑いを数多く遺して――。合掌、うざゴリ(没75)

うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #16

叔母や弟達をのこして、私だけが先に店を出た。
往路にはなかった重みを左手にバスに乗る。

白い風呂敷に包まれた新しい父をいったん自宅に持ち帰り、先代犬の骨壺の隣りに並べた。もっとも陽あたりがよく、方位的にも申しぶんなく、双方の祖父母の写真が並んだ我が家でもっとも優しい部屋。

唯一の気がかりがあるとすれば……それゆえに、愛犬たちのトイレもあるということだ。

「どうしたものかしら」

さすがの私も迷ったけれど、叔母の言葉を思い出した。「兄ちゃんは寂しがりやで、みんながいる賑やかな場所が好きだったから――」

水を飲みに、用を足しに、犬達が一日に何往復もする場所。
さみしくなかろう。大の犬好きだったし。

5人の愛人と、12人もの顧客女性を生活の面倒を見つつパートタイムラバにしていた、6万円しか通帳にのこさずぽっくり逝ったピンクオヤジにはやはりこの部屋がお似合いだ。

喪服を脱ぎ捨てジーンズに穿きかえて、自転車にまたがった。葬儀社の家族葬パックに含まれた「後飾り祭壇キット」を受け取りに向かう。

あえていつもと同じことをしたくなった。
親を亡くすなんて、誰だって一度は経験するあたりまえの出来事だろう。いつもと同じようにイヤホンを耳にさし込んで、いつもと同じようにプレイリストから今日の一曲目を選んだ。

スティービーワンダーの名曲、“Isn’t She Lovely?”
娘のアイシャの誕生を祝ってつくられた曲。

お風呂に入るたびに芦屋雁之助の“娘よ”ばかり歌っていた父には無縁のポップでオシャレな曲。両曲に唯一共通点があるとすれば、どちらの父親も娘をとても愛しくおもっているということ。

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