うざゴリ#18|ひとり暮らしの親の孤独死×訴える

うざゴリ

齢73にして母から三下り半を突きつけられ「ポイ」された父。
私たち姉弟の大好きだった父は今は昔。

「縦のモノを横にもしない大酒のみの頑固なウザいゴリラ」と化した父は、浴室からひとりでぽっくり旅立った。山積みの問題と未処理の面倒と、どうしようもない笑いを数多く遺して――。合掌、うざゴリ(没75)

うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #18

私は女性にしてはわりと現実主義で、ふわふわとした可愛い夢見心地なぶぶんを持ち合わせていない。だけど――。

葬儀が済んで、わが家に後飾り祭壇を置いて3日後のお昼過ぎだった。
パソコンに向かって台本を書いていた。明日までに3本の企画書も提出しなければならず、愛犬の散歩さえスキップするほど忙しく食事さえとっていなかった。

モニターの左手前には縦型の充電器。
立てかけていたiPhoneが通知をうけとったことを報せて光った。
視線を向けると「siriからのお知らせ」とポップが浮かんでいた。

お知らせってなんだろう。これまでただの一度もこんな通知は出たことがない。siriからのお知らせの内容を知りたくて画面をタップすると、葬儀前日に父へ向けて書いた手紙の冒頭の文字が表示されていた。

『お父さんへ』

なんだ? バグ? 自覚はないけれど私は「siri的なひとり言」をしてしまったのだろうか。台本を書きながら「ああ、おsiriが痒い」とか? 
企画書を遂行しながら「もっとsiriたいものだ、大相撲の歴史」とか? だからsiriが作動したとか? 

だめだめ、バカなこと言ってないで! 時間がないんだから、仕事仕事!

ほとんど徹夜で朝を迎えて2時間少しの仮眠をとった。
今日もやはり時間がない。とりあえず愛犬に餌をやって、祭壇の水だけは替えた。さあ、あとひと踏ん張り。すべて終わったら爆睡しよう。

iPhoneが再びsiriからのお知らせを受けた。
画面に表示された『お父さんへ』の5文字。

時計を見ると11時48分。あと12分でお昼の時間だ。
なんだか気味が悪くなってキーボードをたたく手を止めた。

――あの日私は父への最期の手紙をパソコンで入力して、セブンイレブンで印刷するためにiPhoneのメモにそれを同期した。なぜ急にsiriがそれをお知らせしてくるようになったんだろう。

昨日と今日。siriが私に伝えたいことがあるのかしら。忙しさにかまけて、私は重要ななにかを忘れているのかしら。iPhoneを手に取ってリマインダーを確認するもTodoリストから漏れたものはない。

昨日と今日……? お父さん……?
あっ。ごはんをお供えしてなかった。まさか、そんなまさか!

確かに父は食い意地が張っていた。事務所に毎朝お弁当を届けていた頃も、挨拶もそこそこに保冷バッグのファスナーをあけて中身を確かめるほどの食いしん坊だった。

だからって、まさか……!

この話の本当のオチはこのあとだ。

iPhoneを手に設定を開いて「通知」を確認すると、やっぱり。私はsiriからの提案もsiriからの通知もオフに設定していた。となるとこれは父からの『お父さんへ』ごはん、忘れていませんか? という無言の圧――?!

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