うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #23
相続放棄に対する決意もゆらぎも、「期限はあと3ヶ月もあるから今すぐ決めなくてもいいんじゃない?」という私の一言で保留になった。
思いつめやすい長弟の性格と、なんとなく『二転三転しそうな』近未来を考慮してのことだった。弟達には秘密だけど、難しそうだから後回しにしたってのもある。
親やきょうだいが亡くなったら、そのあとがとにかく大変なのだというけれどいまいちピンときていなかった。けれど今はわかる。とにかくやるべきことが多いのだ。
「とりあえず今日はここを片づけて終わろうか」
私達の目には要らない物しか乗っていないように見えるダイニングテーブルを、話し合いがしやすいよう何もない状態にしたかった。
「お父さんって仕事から戻ったから、ここからまったく動かなかったんだろうね」
「そうだね。座ったまま手の届く範囲でなにもかもが済むように、なんでもかんでもここに乗せてたんだろうな」
私達きょうだいは3人ともが、片づけられる人。几帳面と言い換えても問題ないほどだ。それはまさに父譲りで、使ったものは元在った場所に必ず戻し、部屋を片付けるように叱られたことは一度としてない。
それでも人はこんな風にかわってしまうのか――。
べたべたとした天板に張りついてしまったチラシを、アルコールスプレーを使ってゆっくりと剥がしていく。
「なんか書いてあるよ、なんだろコレ……いちじゅうひゃく……にひゃく……はちじゅう万、払ってもらわないと裁判起こしますだって。なにこれ?」
「これ会社名じゃない?」
「お姉ちゃん、検索してよ」
チラシの裏に父の字でメモされた社名を検索すると、「詐欺・脅迫・脅し・高齢者注意」といったサジェストが会社名とともに出てきた。
ははーん。
どうやらひとり暮らしの高齢者を狙って、使用もしていない・購入もしていない・見てもいないものを「買ったでしょ? 視聴したでしょ? 滞納金がたまってますよ、払ってよ」と脅迫する系の詐欺電話が数社から何度もかかってきていたらしい。
メモ魔な父は悪徳企業の電話相手が言ったことを、その場できちんとメモにとっていた。
「なんかもう情けなくて泣けてくるわね……」
昭和・平成を頑張って生きぬいてきた人達が、こういう輩のターゲットにされてしまうことも。知らない番号からの着信に出てしまって、話を最後まで聞いてしまう父も。こんな電話がかかってきていたことを、父の死後まで知らなかった私達も。
注意喚起をすれば煩いと怒鳴られそっぽを向かれ、顔を見るたびに喧嘩になった。俺にうるさく言ってこないからと父が身の回りの世話役に選んだのは、父の第一発見者になった加藤さんだった。
父が私達を遠ざけたのか。
私達が父から距離をとったのか。
大好きだった父が、ほんとうにかなしい。