わたしがどうしても京都にたどり着けない理由は、18歳の時に憑いた“女の生霊”が邪魔をしているからだ――と、にわかに信じがたい話を平然と言ってのけたカフェのママ兼占い師。
「八坂神社に行かれてください。そしたらもう離れてくれます」
幽霊なんて視たことがないし、霊感なんてそれこそ「零感」だ。生霊つったって何年前よ、27年? ……冗談でしょ。
清水寺に音羽の滝、そして八坂神社。30年近く(!)念願だった場所を足早に回って、焼けた肌がちりちり痛い。サンダル履きの足のかかとはどうやら大きな水ぶくれができている。
Apple watchで確かめるとどうやら3時間以上、歩き続けているらしい。普段の運動不足もこれで解消されたんじゃないだろうか。んなこたぁないか。
足をじゃっかん引きずりながら、東山区にある「三十三間堂」に到着。寺院内は撮影禁止。平成30年にすべてが国宝指定されたという1,001体の千手観音立像は圧巻の一言。
海外のかたがたが「hooo…!」と感嘆のため息をつく横で、私たちも「ふわぁぁ」と圧倒されて息が漏れた。そりゃあ外国の方が京都をたずねたくなるわけだよ。見どころが多すぎ、この街。歴史語りすぎ、この街。
「先輩、アメックス会員だけが利用できるお茶屋さん行きません?」
「えっ!? そんなのあるの?」
「父から教えてもらいました、内緒ですよ」
アメックス会員なら「冷やし飴」か「麦茶」を無料で提供していただけるだけじゃなく――
縁側に腰かけて石庭を眺めながら、誰もが一言も発さない。
「風流」や「わびさび」を海外のかたに説明するのは難しいと聞いたことがある。なるほど、説明なんてしなくても通じるものがあるんだろう。
白髪の紳士と目が合うや「Goodjob」と頷かれた。
京阪本線祇園四条駅から徒歩4分。イタリアンバル『datten』で少し早めの夕飯をとり、ホテルへ戻って17時半。
「足が……!」
「……もう歩けません」
「明日もあるから」
「そうですね、今日はゆっくりやすみましょう」
まさか、翌朝大急ぎで京都を離れるはめになるとは思ってもみなかった。