うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #10
「ねぇ、ちょっと。お父さん、通帳に6万しかないんだけど? 夢?」
葬儀社と通話中だった弟以外の3人が私を取り囲み、義妹達は「すみません」「ごめんなさい、義父さん」と手を合わせてから通帳を覗き込んだ。
私がいくら数字に弱いと言っても、左手にはスマートフォンの電卓アプリが立ち上がっている。間違えるほうが難しいだろう。
もしかするとあれか。ほかにも隠し通帳があったり、インゴットがいくつも銀行に預けられていたりするのかもしれない。だってうちは裕福だった、やはりどう考えてもこんな全財産はおかしい――。
「申しわけないけど、今は実家に泊まる気分にはなれない」と正直な感想を述べた弟達はホテルに宿をとり、私は2つ向こうの停留所までゆっくりと歩いて、そこからバスに乗って帰ることにした。
すぐ下の弟夫婦が明日の朝、警察署に出向いて検案書をもらってくることになっている。末の弟夫婦は細々した事務手続きを担当する。
姉である私はというと、父と山本さんが共同経営していた事務所に行き、報告やお礼・事務所の方々への挨拶、片づけを済ませる予定を組んでいた。
良い思い出なんてほとんどないこの街の夜景でも、郷愁にひたるには十分な演出になる。夜泣きする私をおぶった父の口ずさむ子守歌が脳裏に浮かぶ。
おどま盆ぎり盆ぎり
盆から先きゃおらんと
盆が早よくりゃ早よもどるおどま勧進勧進
五木の子守唄
あん人たちゃよか衆
よか衆ゃよか帯よか着物