うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #11
“やに”が染みついて黄ばんだ事務所。煙草を吸わない私は、父と山本さんが共同経営するこの会社が苦手だった。居ると2分で鼻の奥と喉が痛くなる。
できるだけ入室したくなくて、事務所の入り口で手作りの弁当を渡していた日々がずっと遠い昔のことに思える。でも今日は仕方がない。ひとり娘として、報告とお詫びとお礼をしなければならない。
山本さんと加藤さんが異変に気づいて実家に駆けつけてくれなければ、父のからだはもっと冷たくかたくなっていただろうから。
「昨日は有難う御座いました。葬儀の日が決まりま――」
「いえいえ。ここからが大変ですな。それとこれ、申しわけないんですけどね」
私の話を遮って話しはじめた山本さんは、思い出したように立ち上がり事務机の引き出しを開けた。
「娘さん達には申し訳ないんだけどね、僕らお父さんの葬儀にはでませんわ。そのかわり、これからなんだかんだと苦労されると思うから足しにしてくださいな」
山本さんの背後からこちらの様子をうかがっていた人達が、一斉に顔をそむけた。山本さんはわざとらしく咳き込んで「インフルエンザか風邪か、昨日くらいから鼻がでてねぇ。感染しても悪いからねぇ。僕らみんないい歳ですからな!」と乾いた声で笑った。
11名ぶんの香典を2つにわけて応接テーブルの上に並べて置いた。
「弔いの気持ちすらない」「やっといなくなってくれた」と直接言われた方がましだった。モラハラでパワハラで裸の王様で、“イエスマン”しか求めない父の人生の答え合わせ。
「惜しい人を亡くした」「75歳なんてまだ若いのに」と、表面上でさえも言われない父の人生と秘密を私達姉弟はこれからいやというほど知らされていく――。
-つづく-