うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #15
叔母と私と弟家族4人がまじまじと父を「拝顔」する。
父が亡くなったことは知っているだろうに母からは未だに連絡はなく、もちろん葬儀に駆けつけてくる気配ももない。母には母の思いがあるのだろうし、母は父方の祖父母の葬儀にも、自身の母親の葬儀にさえ出席しなかったから――母らしいといえば母らしい。
捜査一課の刑事に検視官、葬儀社の方からも言われていた。
「脳出血で亡くなられたので、『血戻り』という現象が起きています」と。
血戻りで鼻血がなかなか止まらない、と聞いていた。
しかし血戻りという現象は鼻血に限定せず起こるものらしい。
棺の中に横たわる父の豊かな白髪は、ピンク色に染まっていた。
「C-C-Bじゃん」
鼻血もロマンティックもなかなかどうして止まらない。叔母と弟2人は吹き出してしまい、泣いていた2人の義妹が“ツッコミ元”の私を見た。
「パンクだよね、髪の毛こんなにピンクだとね」
「こんなにキレイにピンクに染まるかね、しかし」
「気のせいか上田馬之助っぽくもある」
「ふっる!」
「髭もピンクだ!」
「ますますパンク!」
「あはははははは!」
1980年代に活躍したポップスバンドのボーカリストにたとえられたり、往年のプロレスラーにたとえられたり、パンクだメタルだと笑われたり。義妹達の涙もすっかりひっこんでしまったらしい。これでいい、これでいいの。
2時間の火葬が終わり骨上げの儀式がはじまった。
さすがに全員が神妙な面持ちで、骨になった父を取り囲む。
「ちょっと! 見て!」
隣りに立つ末の弟に耳打ちする。
「こめかみ周りの頭蓋骨までピンク。どんだけ~」
「あははははははは!」
火葬待ちのあいだ、斎場の広いロビーで各々が知る父の醜聞を暴露しあっていた。さすがの父も「もうやめてよ!」と頬ならぬ骨を紅く染めたのかもしれない。
晴天に恵まれた葬儀は5時間で終わった。190cm近い大男だった父は小さな骨壺に居を移して、専用に持ってきた小ぶりな厚い紙袋におさまり私の腕に提がった。
喪服姿の6人は場所をかえて、海の幸を堪能することになった。隣りのテーブルでは、カツオを塩で食べるかポン酢で食べるか、天ぷらは塩かツユか、叔母と末の弟夫婦が小競り合いをしている。
「お姉ちゃんって職業柄、顔広いでしょ?」
すぐ下の弟は、やることリストをまとめた手帳を覗き込んだ。
「たしょう……はね」
「安くて腕のいい弁護士さん、知り合いにいない?」
「人情ドラマに出てくるようなそんな弁護士、知り合いにいな……」
いた。
やばい、いた。いる!
「そっかあ、とにかくお父さんがお金遺してないから安くできるものは安くしたいって思ったんだけど……ここはケチっちゃいけないところなんだろうな」
「おーん」
タイガースの岡田監督のような相槌を打ってお茶を濁した。