うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #29
会ったこともない妹の存在を知っても、私は動揺が少なかった。
いないより「いる」の方が信じられたし、今年28歳になる妹ということは父の男盛りの頃の子だ。じゅうぶんにありうる。
それにしても私も“でき婚”で生まれた娘だ。父のコントロール力のなさと、避妊をせずにその場しのぎの快楽に溺れるところが本当に気持ち悪い。
きっとまだほかにも認知していないきょうだいはいるだろう。
実家を相続することも考えていると言っていた長弟も、考えを改めるに違いない。
山本さんと共同経営をしていた事務所から父の荷物をすべて引き上げ、最後の掃除をするために今日はここへきた。ボールペン1本に至るまでヤニのせいか、黄ばんでべたべたとしている。
父にとって思いの深い品があるなら“形見”としてあずかってもいいと思っていたけど、長きにわたって煙に触れてきたそれらを犬を飼っていて喉の弱い私の家に持ち帰る勇気はなかった。
瞬く間にゴミ袋は膨らんで、父が確かにここに存在していてすでに消えたことを知る。ロッカーにしまわれていた20年分の黒い皮の手帳に見覚えがあった。なんでもかんでもきちんとメモにのこす人だった。
「ああ……」
父のデスクの片づけをしていた弟がため息にも似た声をあげた。
「どうしたの?」
「さっき聞いた名前の人だ……」
“できたばかりの妹”の品々が、事務机の三段目の引き出しの底からわらわらと出てきた。
-つづく-