うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #32
生真面目で保守的な長弟は、ボス弁の68歳伊藤さんに苦手意識があった。
世の中の多くの人が、肩書や職業で相手のキャラクターを無意識に決めつけてしまっているところがあると思う。
弟はとくにその傾向が強く「弁護士とはこうあるものだ」「弁護士とは冷静沈着で四角四面に話すものだ」という思い込みがある。
まるでナニワの商人のような“大阪のおっさん”といった口調の伊藤さんに「大丈夫だろうか、信じて任せてもいいのだろうか」という不安を持っていたらしいのだけど――。
主要駅から徒歩1分とかからぬ好立地に、宝塚歌劇団のステージと見紛う大階段が出迎えるビルのメインフロアに伊藤さんの事務所は入っていた。
「すごい……すごいよ、伊藤さんって敏腕弁護士さんなんだね!」
エレベーター脇に掲げられたテナントサインのなかで、ひと際目立つ弁護士事務所の表札を眩しげにみつめる長弟は、彼がもっとも嫌う母にすこし似ていた。