うざゴリ#3|ひとり暮らしの親の孤独死×虫のしらせ、さいごの電話

うざゴリ

齢73にして母から三下り半を突きつけられ「ポイ」された父。
私たち姉弟の大好きだった父は今は昔。

「縦のモノを横にもしない大酒のみの頑固なウザいゴリラ」と化した父は、浴室からひとりでぽっくり旅立った。山積みの問題と未処理の面倒と、どうしようもない笑いを数多く遺して――。合掌、うざゴリ(没75)

うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #3


3日前の20時過ぎ、父からの着信で目が覚めた。

連日のハードワークに疲れて仮眠をとっていた。スマートフォンに手を伸ばした時には呼び出し音は切れていたから「まぁいいや」って再び瞼を閉じたんだった。

留守番電話にのこされた父の声を鼓膜のあたりで思い出す。

「君ノ声ヲ聞ケテイマセン。サミシイ。君ノ声ガ聞コエテキマセン。サミシイ」

日本語をおぼえたての外国人か、「ワレワレハ宇宙人ダ」と話す地球外生命体のような片言のメッセージ。それを聞いた時にすぐに思ってしまった。

お父さんは、もう長くないんだな……。

まさかそれから3日後に、本当に宇宙に還っていくとはさすがに思ってもなかったけれど。

合鍵を持つ私を実家に連れていくという車が、かれこれ20分ほどマンションの下で待っている。ドラマや映画の世界ならばこういう時のヒロインは取る物を取り敢えず駆けつけるのだろう。

現実はそうではない。いや、少なくとも私はそうではなかった。

もう、この世に父はいないと思った。ちがう。もう父はこの世にいないとわかっていたから、焦っても仕方ない、とりあえず落ち着こうって、歯を磨きながら実家へ向かう準備をはじめた。

アレもいる。
コレもいるかな?

頭の中で実家に持っていくべきものをリストアップするのに、思いついたそばから零れ落ちていく。なんだっけ、なにを持っていくべきだっけ。

そりゃそうなんだけど、やはり私は動揺していた。
父はこの世でもう息をしていないだろうと頭の中で思っていても、特大級の「まさか」の前で冷静でいるのはどうやら至難の業らしい。

「何時に帰って来られるんだろう?」

壁の時計を見ると間もなく14時だった。

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