うざゴリ~シシテ尚、迷惑をかける父へ贈る最期の小言 #7
表現はおかしいのだけれど――完全なるご遺体となった父を相手に、救急隊のかたがたは為す術がないらしい。それもそうだ。急いで救う必要がないのだから。
「このあと捜査一課の方がいらっしゃるので、うかがったお話や現状を引き継いでわたくし達は引きあげます」と、リーダー格の救急隊員が言った。
一足早く到着した制服姿の警官が、まだまだ“話したりない”加藤さんを引き受けてくれている。加藤さんは相変わらず声が大きい。あたり一帯が、父が浴槽の中で息絶えたことを知ってしまっただろう。そしてご近所の夕飯の話題にあがるんだ、きっと。
「寒いでしょうにごめんなさいね」
加藤さんに手刀をきって話を遮り、大柄の警察官が近づいてきた。
「いえ……。でも家の中にはまだ入れないんですね」
「そうなんだよ、ごめんね」
原因がわかるまで。
誰になにかをされたわけではないと確証がえられるまで。
実家に入ることはおろか、新聞うけにささったままの新聞を抜くことも、一昨日まで頼りにしていたであろう杖を玄関の内側に入れることさえも許されない。父が還らぬ人となった理由がわかるまでは、私も――明言こそされないけれど――容疑者のひとりなんだと気がついた。
「あっ、そういえば」
「どうかされましたか?」
警官の眼が一瞬にして鋭くなった。
「弟達に知らせなきゃ……」
「まだご存じないんですね?」
「はい。電話しても……」
「どうぞ。しんどかったら代わりますからね」
あのね、お父さんいなくなったんだよ。
いるんだけどね、お風呂場に。でももういないんだよ。
わかる? お姉ちゃんの言ってる意味、わかる?
「お姉ちゃん、大丈夫か?」
うん。うん。大丈夫。
コドクシって本当にあるんだね。でもこれって本当のことなのかな。
肉厚の腕が顔の横からぬっと伸びてきて、私のiPhoneを掴んだ。
「お電話代わりました。お姉さんを少し休ませますね。私は――署の」